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【心療内科の知見をもとに解説】自律訓練法のやり方と効果|不安・不眠・疲労に対するリラクセーション法

心療内科医カズ 心療内科医カズ
公開:2022.07.08 更新:2026.05.28 17分で読める

はじめに:心と体の緊張を「自分で」ゆるめる技法

「肩がいつも凝っている」「ずっと気持ちがソワソワして落ち着かない」「眠ろうとしても緊張が抜けない」。心療内科の臨床では、こうした慢性的な緊張状態を訴える方に多く出会います。

緊張は、ストレスへの自然な反応です。問題は、ストレス源が一時的に去っても緊張が抜けない状態が続くことにあります。意識的に「リラックスしよう」と思っても、力を抜くこと自体が難しくなっている方も少なくありません。

自律訓練法(Autogenic Training, AT)は、こうした状態に対して心療内科で広く用いられる、自己暗示によるリラクセーション技法です。1932年にドイツの精神科医ヨハネス・ハインリッヒ・シュルツ(Johannes Heinrich Schultz)が体系化したもので、約100年の歴史を持ちます[1]。

国内の臨床報告では、自律訓練法を一定期間継続した患者さんに、心身症状の改善や睡眠薬・抗不安薬の減量につながった例が報告されています。ただし、改善率や薬剤の減量・中止の可否は、対象疾患、重症度、併用治療、練習の継続状況によって異なるため、すべての方に同じ効果が期待できるわけではありません[2]。

この記事では、自律訓練法の効果、行うための環境と姿勢、具体的なやり方(公式と消去動作)、注意点を、心療内科の臨床で用いられる知見に基づいて解説します。

この記事の位置づけ:本記事は自律訓練法の一般的な実践方法とエビデンスについて、心療内科の臨床経験と公開されている研究知見をもとに解説するものです。本記事は専門家による指導の代替ではありません。持病をお持ちの方、薬物治療中の方、過去にトラウマや解離症状の経験がある方は、開始前に必ず主治医にご相談ください。


自律訓練法とは:自己暗示でリラックスを誘導する仕組み

開発の経緯

自律訓練法を体系化したシュルツは、催眠療法の研究の中で、患者が深いリラックス状態に入る際に共通して「四肢の重さ」と「温かさ」の感覚を報告することに気づきました。これを応用し、暗示の主導権を治療者ではなく患者自身に持たせる自己暗示(autogenic)の技法として再構成したのが、自律訓練法の出発点です[1]。

なぜ「重さ」と「温かさ」なのか

リラックスした状態では、生理学的に次のような変化が起こります。

  • 筋肉の緊張がゆるむため、重力によって手足が重く感じられる
  • 交感神経性の血管収縮がゆるみ、末梢血流が増えることで皮膚温度が上昇しやすくなる

つまり「手足が重たい」「手足が温かい」という感覚は、リラックス状態に伴って生じやすい身体感覚です。自律訓練法では、これらの感覚に受動的に注意を向け、自己暗示によってリラックス反応を促していくことが中核になります。


自律訓練法の効果

心理面で期待される効果

  • 不安感の軽減
  • 緊張感の緩和
  • ストレス反応の軽減
  • 睡眠に入りやすくなること

国際的なメタ解析では、自律訓練法が不安、軽度から中等度の抑うつ症状、緊張型頭痛、片頭痛、高血圧など、いくつかの心身症状に対して有効性を示す可能性が報告されています[3]。ただし、疾患や症状によってエビデンスの強さは異なり、標準治療の代替ではなく補助的な方法として位置づけるのが適切です。

身体面で期待される効果

  • 睡眠の質の改善
  • 慢性的な疲労感の軽減
  • 緊張型頭痛や片頭痛の症状軽減
  • 軽症から中等症の高血圧に対する補助的効果
  • ストレスに関連する身体症状の緩和

なお、高血圧、過敏性腸症候群、慢性疼痛などの身体疾患・機能性疾患に対して用いる場合は、主治療の代わりではなく、医療者の指導のもとで補助療法として取り入れることが望ましいです。

脳波・自律神経への影響

自律訓練法では、心拍、呼吸、筋緊張、末梢皮膚温などの生理指標に変化がみられることが報告されています。また、臨床研究では、不安の軽減など心理面への効果も検討されています[3]。これらは「思い込み」ではなく、生理的・心理的な変化が伴う技法であることを示しています。


自律訓練法を行うための環境と姿勢

環境の整え方

  • 静かな場所を選ぶ(家族の生活音から離れた部屋など)
  • 明るさを落とす(強い光は覚醒を促すため、照明は暗めに)
  • 室温はやや暖かめ(寒さは筋肉の緊張を強める)
  • ベルト・時計・指輪など、体を締めつけているものは外すかゆるめる
  • スマートフォンは通知をオフに(または別室に置く)

基本姿勢

姿勢は3種類から選びます。

1. 仰臥位(あおむけ)

ベッドや床に仰向けに寝ます。膝の下にクッションを入れると腰が楽になります。両腕は体の脇に置き、手のひらは下向きまたは自然な位置に置きます。

2. 椅子座位

背もたれのある椅子に深く座り、足の裏全体を床につけます。両手は太ももの上に置きます。

3. 単純椅子姿勢(鳥のとまり木姿勢)

背もたれを使わずに椅子に座り、両手を太ももの上に置き、頭を前にやや垂らします。

慣れてくると、椅子座位で短時間の自律訓練法を行いやすくなります。職場の休憩時間や移動中の座席などでも活用できますが、運転中、歩行中、機械操作中、転倒リスクのある場所では行わないでください。練習後に活動へ戻る場合は、必ず消去動作を行います。


自律訓練法の実際:6つの公式と背景公式

全体の流れ

軽く目を閉じ、姿勢を整え、呼吸を無理に操作せず自然に保ちます。数回だけ静かに息を整える程度で十分です。強く深呼吸を繰り返すと、かえって息苦しさや過換気様の不快感が出ることがあるため、力まず自然に行います。

その後、以下の背景公式各公式を、心の中で静かに唱えていきます[4]。公式の回数は指導法によって多少異なりますが、同じ公式を数回繰り返し、感覚を無理に作ろうとせず、受動的に注意を向けることが大切です。

標準練習の公式

背景公式:「気持ちが落ち着いている」

すべての練習の入口で唱えます。気持ちを内側に向ける合図のような役割を果たします。

第1公式:重感

例:

  • 「右腕が重たい」
  • 「左腕が重たい」
  • 「両腕が重たい」
  • 「右足が重たい」
  • 「左足が重たい」
  • 「両足が重たい」

実際には、利き腕または右腕から始め、十分に慣れてから他の部位へ広げていく方法が一般的です。最初から全身を一度に行う必要はありません。筋肉の緊張がゆるみ、重力を感じる練習です。

第2公式:温感

例:

  • 「右腕が温かい」
  • 「左腕が温かい」
  • 「両腕が温かい」
  • 「右足が温かい」
  • 「左足が温かい」
  • 「両足が温かい」

温感も、重感と同じく段階的に進めます。冷え、血流障害、しびれ、痛みなどがある場合は、温感を無理に感じようとせず、必要に応じて医療者に相談してください。

標準練習の後半公式(参考)

シュルツの自律訓練法では、第1公式・第2公式に続いて、以下の公式へ進むことがあります。これらは「上級公式」ではなく、標準練習に含まれる後半の公式です。ただし、心臓、呼吸、腹部、頭部の感覚に注意を向ける練習では、不安、動悸への過敏、息苦しさ、身体感覚へのとらわれが強まることもあるため、自己流で進めず、可能であれば専門家の指導を受けることが望ましいです。

  • 第3公式:「心臓が静かに規則正しく打っている」(心臓調整)
  • 第4公式:「楽に呼吸している」または「自然に呼吸している」(呼吸調整)
  • 第5公式:「お腹が温かい」または「みぞおちのあたりが温かい」(腹部温感)
  • 第6公式:「額が心地よく涼しい」(額部涼感)

セルフケアとして始める場合は、第1公式(重感)と第2公式(温感)までを中心に練習し、体調に不安がある場合は医療者や指導者に相談してください。

練習を続けるコツ

最初の数週間は、重さや温かさをほとんど感じないことも多いです。これは正常な経過で、無理に「感じよう」とする必要はありません。

ポイントは次の3つです。

1. 集中しすぎない:「重く感じよう」「温かくしよう」と力むと、かえって緊張が強まることがあります。「感じられればそれでよい」という受動的な姿勢が大切です。

2. 短時間から毎日続ける:初めは1回2〜5分程度からでも構いません。慣れてきたら5〜10分程度に延ばし、1日2〜3回を目安に生活の中へ組み込みます。

3. 完璧を求めない:感じない日があっても失敗ではありません。感覚を作ろうとせず、淡々と続けることが大切です。

2. 短時間から毎日続ける:初めは1回2〜5分程度からでも構いません。慣れてきたら5〜10分程度に延ばし、1日2〜3回を目安に生活の中へ組み込みます。

3. 完璧を求めない:感じない日があっても失敗ではありません。感覚を作ろうとせず、淡々と続けることが大切です。


練習後の「消去動作」を必ず行う

なぜ消去動作が必要か

自律訓練法でリラックスが深まると、練習後に眠気、ぼんやり感、ふらつき、脱力感、手足の重さが残ることがあります。練習後に活動へ戻る場合は、消去動作(cancellation)によって覚醒水準と筋緊張を戻すことが重要です。消去動作を省略すると、転倒や作業中の事故につながる可能性があります[4]。

消去動作の手順

各練習の終わりに、以下を順に行います。

1. 両手の開閉:手をグーパー、グーパーと数回から10回程度繰り返します。

2. 両肘の屈伸:両手を握ったまま、肘の曲げ伸ばしを数回から10回程度行います。

3. 大きく背伸びをする:両腕を伸ばし、全身を起こすように背伸びをします。

4. 目を開ける:最後にゆっくり目を開け、意識がはっきりしてから立ち上がります。

2. 両肘の屈伸:両手を握ったまま、肘の曲げ伸ばしを数回から10回程度行います。

3. 大きく背伸びをする:両腕を伸ばし、全身を起こすように背伸びをします。

4. 目を開ける:最後にゆっくり目を開け、意識がはっきりしてから立ち上がります。

消去動作を省略してよい場面

就寝直前に自律訓練法を行い、そのまま眠る場合は、消去動作を省略しても構いません。ただし、途中で起き上がる必要がある場合や、練習後にトイレへ行く場合などは、簡単な消去動作を行ってから動くようにしてください。

それ以外の時間帯(昼休み、仕事の合間、移動中など)では、必ず消去動作を行ってから次の活動に移ってください。


練習量の目安

1回の練習時間と頻度

  • 1回の練習:初めは2〜5分程度、慣れてきたら5〜10分程度
  • 1日の頻度:1日2〜3回を目安に、無理のない範囲で行う
  • 継続期間:効果を実感するには数週間から1か月以上かかることがあります。可能であれば2〜3か月程度、継続して様子をみます

練習後に活動へ戻る場合は、毎回、消去動作を行います。

慣れてきた後の省略

十分に習熟し、重感・温感が安定して得られるようになったら、指導法によっては「両腕が重たい」「両足が重たい」「両腕が温かい」「両足が温かい」のように簡略化することがあります。

ただし、初心者の段階で早く省略しすぎると、感覚が安定しにくくなることがあります。まずは段階的に練習することが大切です。

短時間で深いリラックスに入れるようになることが、習熟の目標です。


注意点と禁忌

主治医・専門家への相談が望ましい場合

以下に該当する方は、自己判断で始めず、開始前に主治医や専門家へ相談してください。

  • 重度の心疾患・呼吸器疾患をお持ちの方
  • てんかんの既往がある方
  • 精神病性障害、双極性障害、重度のうつ病などで治療中の方
  • パニック発作が起こりやすく、身体感覚への注意で不安が強まりやすい方
  • 過去にトラウマや解離症状を経験している方
  • 強い自殺念慮、自傷衝動がある方
  • 身体感覚に注意を向けることで症状が悪化した経験がある方

起こりうる「自律性解放(自律性発散)」現象

自律訓練法の練習中、まれにピリピリ感、震え、動悸、息苦しさ、感情の急な動揺、過去の記憶が浮かぶ体験などが生じることがあります。自律訓練法の文献では、こうした現象が「自律性解放」または「自律性発散」と説明されることがあります[4]。ただし、強い不快感やフラッシュバックが生じる場合は、単なるリラックス過程とみなして続けるのではなく、練習を中止し、医療者や専門家に相談してください。

軽度であれば、消去動作を行って中断し、しばらく休んでから再開できます。

マインドフルネスや瞑想との違い

自律訓練法は、「重たい」「温かい」といった公式を用いて、特定の身体感覚とリラックス反応を促す技法です。一方、マインドフルネスは、今この瞬間の体験に評価や判断を加えず注意を向ける訓練です。両者は重なる部分もありますが、目的、手順、注意の向け方が異なります。

「マインドフルネスは合わなかった」という方が、自律訓練法では効果を実感できることもあります。詳しくは「【心療内科医がわかりやすく解説】マインドフルネスのやり方と危険性」の記事もご参照ください。


まとめ:継続が、もっとも大きな成果につながる

自律訓練法は、心療内科で広く用いられる、エビデンスのあるセルフケア技法です。

1. 自己暗示によって「重さ」と「温かさ」の感覚を誘導し、リラックス反応を促す

2. 不安、緊張、睡眠の問題、疲労感、頭痛、高血圧などに対して、補助的な効果が報告されている

3. 第1公式(重感)と第2公式(温感)が、セルフケアの中心になる

4. 練習後は必ず消去動作を行う(就寝直前にそのまま眠る場合を除く)

5. 1日2〜3回を目安に、数週間から1〜3か月程度継続すると、効果を実感しやすくなることがある

最初は感覚を感じにくくても、続けるうちに少しずつ深まっていきます。「うまくやろう」とする力みを手放し、淡々と続けることが、自律訓練法を活かす最大のコツです。

長期間続けても効果が感じられない場合や、心身の不調が続く場合は、医療機関にご相談ください。


参考文献

[1] Schultz, J. H., & Luthe, W. (1969). Autogenic Therapy, Volume I: Autogenic Methods. Grune & Stratton.

[2] 中村延江ほか(1996). 自律訓練法の長期的効果. 自律訓練研究, 16, 10–18.

[3] Stetter, F., & Kupper, S.(2002). Autogenic training: A meta-analysis of clinical outcome studies. Applied Psychophysiology and Biofeedback, 27(1), 45–98.

[4] 佐々木雄二 (2005). 自律訓練法の実際:心身の健康のために. 創元社.


免責事項:本記事は自律訓練法の一般的な実践方法とエビデンスについて、心療内科の臨床経験と公開されている研究知見をもとに解説するものであり、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。本記事は専門家による指導の代替ではありません。持病をお持ちの方、薬物治療中の方、過去にトラウマや解離症状を経験している方は、開始前に必ず主治医にご相談ください。練習中に強い動揺や不快感が続く場合は、自己判断で続けず、医療機関にご相談ください。

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心療内科医カズ

— この記事を書いた人

心療内科医 カズ

総合内科専門医・心療内科専門医。20年以上の臨床と研究の経験から、心とからだの実践知をやさしく綴ります。

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