【心療内科医が解説】アサーションとは?相手を尊重しながら自分を伝える方法と5つの実践
心療内科医カズ
はじめに:「言える」と「ぶつける」の間
「言いたいことを抑え込んで、後でモヤモヤする」「逆に、つい強く言ってしまって自己嫌悪になる」。心療内科の診察室では、この両極の悩みを行き来している方によく出会います。
抑え続けてもストレスがたまり、ぶつければ関係が壊れる。どちらでもない第三の選択肢として知られているのが、アサーション (assertion) です。「相手を尊重したうえで、自分の気持ちや意見を率直に伝える」コミュニケーションのあり方を指します。
アサーションは、特別な才能ではなく、訓練によって身につくスキルです。本記事では、アサーションとは何か、どんなコミュニケーションタイプがあるか、そして実践のための5つの要素を解説します。
この記事の位置づけ:本記事は、対人関係のコミュニケーションに関するアサーションの考え方とトレーニング方法について、心療内科の臨床経験と心理学的な枠組みをもとに解説するものです。本記事はセルフケアのための情報提供であり、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。対人関係の困難が日常生活に支障をきたしている場合は、医療機関や心理職へのご相談をお勧めします。
アサーションとは何か
「主張」ではなく「自他尊重の自己表現」
アサーション (assertion) は、英語の辞書では「強く信じていることを言ったり書いたりすること」を意味します。日本語の直訳は「主張」ですが、心理学・コミュニケーション論の領域でのアサーションは、「自分も相手も尊重したうえで行う、率直な自己表現」と定義されます[1]。
形容詞形は「アサーティブ (assertive)」、訓練法は「アサーショントレーニング (assertion training)」と呼ばれます。
アサーションの起源と研究的背景
アサーションは、Andrew Salter が1949年に発表した Conditioned Reflex Therapy など、行動療法の先駆的な文脈の中で発展してきたとされています[2]。その後、Alberti と Emmons によって、「自己と他者の権利を尊重しながら自己表現する」という考え方として広く体系化されました[1]。以後、対人不安、抑うつ、対人スキルの困難など、幅広い臨床・教育領域で用いられてきました。
近年のレビューでは、アサーショントレーニングは、自己主張の困難、対人不安、抑うつ、自尊感情などに対して有用性が示唆されており、認知行動療法的技法の一つとして再評価されています[3]。ただし、効果の大きさや対象者、実施形式には研究ごとの差があるため、「あらゆる人に一律に効果が確認されている」とまでは言い切れません。
スキルとしてのアサーション
「スキル (skill)」とは、訓練によって獲得される能力・技術を意味します。アサーションが訓練対象になるのは、これが生まれつきの性格ではなく、習得可能な技術だからです。
「自分は内向的だから、アサーションは無理」と感じる方もいますが、内向性とアサーションは独立した概念です。穏やかで内向的な方でも、アサーティブな自己表現は十分に身につけられます。
コミュニケーションの3つのタイプ
アサーションを理解するために、対人コミュニケーションを次の3つのタイプに整理します。
タイプ1:他者優先 (Non-Assertive)
自分の意見を抑え、相手に合わせるタイプです。
特徴
- 言いたいことが言えない
- 「我慢すればいい」と考えがち
- 相手との直接的な衝突は少ない
- 不満が蓄積し、ある時点で強い怒りとして表出したり、ストレス反応や身体症状につながることがある
長所と短所
短期的には関係が穏やかに見えることがありますが、長期的にはストレスが蓄積し、抑うつ気分、不安、身体化などのリスク要因になることがあります。「いい人」と評価されている方が、突然出社できなくなるというケースの背景に、しばしばこのタイプが見られます。
タイプ2:攻撃的・自己優先型 (Aggressive)
自分の意見を、相手の気持ちを顧みずに主張するタイプです。
特徴
- 「正しいのは自分」という前提に立ちやすい
- 声が大きい、口調が強い
- 相手を黙らせる形で「勝つ」傾向
- 短期的には主張が通るが、長期的には人が離れる
長所と短所
決断が早く、リーダーシップに見えることもあります。ただし、関係性を消耗させるため、長期的には孤立しやすい傾向があります。
タイプ3:アサーション (Assertive)
相手の気持ちを認めたうえで、自分の意見も伝えるタイプです。
特徴
- 相手の状況や感情を一度受け止める
- 「私は〜と感じている」と自分を主語にする
- 相手に強要せず、選択の余地を残す
- 短期的には相手に受け入れられないこともあるが、長期的には健全な対話や信頼関係につながりやすい
同じ人でも、相手や場面で変わる
ここでよく誤解されますが、これは「タイプ別の人間分類」ではありません。同じ人でも、相手や状況によってどのタイプに偏るかは変わります。
職場の上司には他者優先になり、家庭で親には攻撃的・自己優先型になり、親友にはアサーティブ。こうしたパターンは珍しくありません。
ただし、これは「どのタイプも同じように望ましい」という意味ではありません。相手に合わせることが必要な場面や、自分の境界をはっきり守る必要がある場面はあります。しかし、相手を脅したり、黙らせたり、権利を侵害したりする攻撃的な関わりは、原則として健全なコミュニケーションとはいえません。
大切なのは、受け身でも攻撃的でもない形で、自分の意見や限界を伝える選択肢を持つことです。長期的に有用なのは、状況に応じてアサーティブな関わりを選べる力です。
場面別の具体例
仕事を手伝ってほしい場面で、それぞれのタイプを比較します。
| タイプ | 言い方 |
|---|---|
| 他者優先 | (何も言えず、自分一人で抱え込む) |
| 攻撃的・自己優先型 | 「そんなことしてないで、こっち手伝ってよ!」 |
| アサーション | 「忙しいところ申し訳ないけど、こっちを手伝ってもらえると助かる」 |
3番目の言い方は、(1) 相手の状況の認識、(2) 自分の気持ちを「私」を主語にして伝える、(3) 強要せず選択の余地を残す、という構造を備えています。
アサーショントレーニング:5つの要素
アサーティブなコミュニケーションにはさまざまな整理の仕方がありますが、本記事では実践しやすい形として、次の5つの要素に分けて考えます。それぞれをトレーニング対象として意識すると、徐々に自然に出せるようになります。
要素1:相手の気持ちを推察する
ふだん、私たちは「相手の気持ちはわかっているつもり」になりがちですが、実際にはほとんど推測です。アサーションでは、相手の気持ちを意識的に推察するところから始めます。
実践のヒント
- 「相手はいま何を抱えているか」を、3つほど想像してみる
- 「私が相手の立場だったら」を、頭の中で再生してみる
- ロールプレイ:他者優先・攻撃的・アサーティブ、それぞれを「言われる側」として体験してみる
ロールプレイは、アサーショントレーニングでよく用いられる技法の一つです。ただし、研究ではロールプレイ単独の効果というより、モデリング、リハーサル、フィードバック、宿題などを含むプログラム全体として効果が検討されることが一般的です[3]。
要素2:自分の見方・考え方を点検する
「相手が悪い」「私は正しい」という確信は、ときに歪んだ認知から生まれています。
ここで役立つのが認知療法の考え方です。「いま自分が抱いている解釈は、現実的にバランスが取れているか?」を一度点検してみる。代替的な解釈を1つでも並べてみる。これだけで、相手への怒りや不安が和らぎ、アサーティブな選択肢が取りやすくなります。
詳細は別記事「【心療内科医が解説】認知療法で考え方を変える方法」を参照してください。
要素3:感情的にならない工夫
激しい怒り・不安・悲しみの中では、アサーティブな表現は難しくなります。
感情の波を整える方法として、
- マインドフルネス瞑想や呼吸への注意
- 自律訓練法などのリラクセーション法
- 一度その場を離れて、少し時間を置く
- 感情や考えを紙に書き出して整理する
などは、感情の高ぶりを整える方法として用いられます。瞑想プログラムについては心理的ストレスの軽減に一定の効果が示されていますが、効果は中等度以下であり、すべての人に同じように有効とは限りません[4]。また、自律訓練法にも臨床的有用性を示すメタ分析があります[5]。紙に書き出す方法については、感情整理に役立つことがありますが、内容やタイミングによっては反すうが強まる場合もあるため、自分に合う形で行うことが大切です[6]。「いま伝える」ではなく「整えてから伝える」を選択肢に入れてください。
要素4:相手を尊重していることを示す
アサーションでは、自分の気持ちや意見を伝える際に、相手の状況や立場にも配慮していることを示すと、対話が進みやすくなります。ただし、必ず毎回謝罪や前置きを入れなければならないわけではありません。過度にへりくだると、かえって他者優先型のコミュニケーションに戻ってしまうことがあります。
例:
- 「忙しいところ申し訳ないけど」
- 「いま手が離せないのはわかったうえで」
- 「あなたなりに考えてくれているのは伝わってる」
こうしたフレーズは、相手が「責められている」と感じにくくする助けになることがあります。ただし、相手の反応は状況や関係性によって異なるため、必ず防衛的反応を防げるわけではありません。
なお、感情を言葉にすることが扁桃体活動の低下や前頭前野領域の関与と関連することを示した研究はありますが[7]、これは主に「感情ラベリング」に関する研究です。「相手を尊重する前置き表現」が直接その効果をもつと示した研究ではないため、脳科学的説明は控えめに理解する必要があります。
要素5:「相手への要求」ではなく「自分の気持ち」を伝える
ここはアサーションの重要な要素です。
「あなたは〜すべきだ」「〜してくれないと困る」といった命令的・非難的な表現は、相手を防衛的にし、関係を緊張させやすくなります。相手の言動を直接コントロールしようとすると、かえって抵抗を招くこともあります。
代わりに、
- 「私は〜と感じている」
- 「〜してもらえると、私は助かる」
- 「〜があると、私は安心する」
のように、「私」を主語にして、自分の感情・困りごと・希望を伝えます。必要な場合は、相手が応じるかどうかを選べる形で、具体的で交渉可能な依頼を添えることもアサーティブな表現に含まれます。
これは「I メッセージ (アイ・メッセージ)」と呼ばれる技法に近い考え方です。Thomas Gordon の親業訓練などを通じて広く知られるようになり、コミュニケーション教育の中で用いられてきました[8]。ただし、I メッセージは単に「私は〜と感じる」と言うだけではなく、相手の具体的な行動、その影響、自分の感情や希望を、非難にならない形で伝える方法として理解すると実践しやすくなります。
逆説的ですが、相手をコントロールしようとするよりも、自分の感じ方や希望を明確に伝え、相手が選べる余地を残したほうが、対話が進みやすくなることがあります。自分の伝え方が変わることで、関係性のパターンが変化することは臨床場面でもしばしば観察されます。ただし、相手の変化を保証するものではありません。
アサーションを実践する際の注意点
「アサーションすれば必ずうまくいく」わけではない
アサーティブに伝えても、相手が変わらない、相手の機嫌を損ねる、関係が悪化する。こうした場面は必ず出てきます。
これは、アサーションが失敗したのではなく、アサーションは「結果を保証する技術」ではないということです。アサーションが目指すのは、自分の気持ちを尊重しながら、相手も尊重した形で、健全な対話を試みること。結果は相手や状況にも依存します。
それでも長期的には、アサーティブな関わりを続けることで、自分にとって無理の少ない関係を選びやすくなり、健全に対話できる人との関係を維持しやすくなる可能性があります。
「アサーション」という名の支配にならないように
アサーションは、自分の主張を通すための技術ではありません。「アサーティブな言い方さえすれば、相手は受け入れるべきだ」という発想に陥ると、それは姿を変えた自己中心型のコミュニケーションです。
アサーションの土台は、自他尊重です。「相手はそれに応える義務を負わない」という前提を、どこかに置いておく必要があります。
うまくいかないときの選択肢
アサーティブに何度伝えても、相手の言動が攻撃的なまま変わらない場面はあります。職場のハラスメント、家庭内の暴力、長期的に消耗を強いる関係性など。これらは、コミュニケーション技術だけで対処すべきものではありません。
- 距離を取る
- 第三者 (上司・人事・専門家) を介する
- 関係そのものを見直す
といった、関係性の枠組みを変える選択肢を検討する必要があります。心療内科や心理職は、こうした判断をサポートできます。
まとめ
- アサーションとは、自分も相手も尊重したうえで、率直に自己表現するコミュニケーションのあり方
- 対人コミュニケーションは、非主張的・攻撃的・アサーティブの3つの反応パターンで整理できる。同じ人でも相手や場面によって偏りは変わる
- 本記事では、アサーショントレーニングを実践しやすくするために、5つの要素に整理した:(1) 相手の状況や気持ちを想像する、(2) 自分の見方を点検する、(3) 感情を整えてから伝える、(4) 相手の立場にも配慮していることを示す、(5) 「私」を主語にして感情・希望・具体的な依頼を伝える
- 結果を保証する技術ではないが、長期的には健全な対人関係を支える土台になる
- うまくいかない関係には、関係性そのものを見直す選択肢も必要
「言える」と「ぶつける」の間には、意外と広い余地があります。アサーションは、その余地のなかで、自分らしい言葉を探していく練習です。完璧でなくて構いません。今日、誰かに伝えるひとことから、始めてみてください。
参考文献
[1] Alberti, R. E., & Emmons, M. L. (2017). Your Perfect Right: Assertiveness and Equality in Your Life and Relationships (10th ed.). Impact Publishers.
[2] Salter, A. (1949). Conditioned Reflex Therapy. Creative Age Press.
[3] Speed, B. C., Goldstein, B. L., & Goldfried, M. R. (2018). Assertiveness training: A forgotten evidence-based treatment. Clinical Psychology: Science and Practice, 25(1), e12216.
[4] Goyal, M., Singh, S., Sibinga, E. M. S., Gould, N. F., Rowland-Seymour, A., Sharma, R., Berger, Z., Sleicher, D., Maron, D. D., Shihab, H. M., Ranasinghe, P. D., Linn, S., Saha, S., Bass, E. B., & Haythornthwaite, J. A. (2014). Meditation programs for psychological stress and well-being: A systematic review and meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.
[5] Stetter, F., & Kupper, S. (2002). Autogenic training: A meta-analysis of clinical outcome studies. Applied Psychophysiology and Biofeedback, 27(1), 45–98.
[6] Frattaroli, J. (2006). Experimental disclosure and its moderators: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 132(6), 823–865.
[7] Lieberman, M. D., Eisenberger, N. I., Crockett, M. J., Tom, S. M., Pfeifer, J. H., & Way, B. M. (2007). Putting feelings into words: Affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science, 18(5), 421–428.
[8] Gordon, T. (2000). Parent Effectiveness Training: The Proven Program for Raising Responsible Children. Three Rivers Press.
免責事項:本記事は心療内科の臨床経験とコミュニケーション心理学に関する公開された知見をもとにした解説であり、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。対人関係の困難が日常生活に支障をきたしている場合、ハラスメントやDVなどの被害にあっている場合は、医療機関や心理職、専門の相談機関へのご相談をお勧めします。
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