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【心療内科医が解説】コミュニケーションを変える「ストローク」の考え方|交流分析の実践

心療内科医カズ 心療内科医カズ
公開:2022.04.19 更新:2026.05.27 17分で読める

はじめに:あいさつ一つで関係が変わる

「同じ職場の二人にあいさつをしたとき、片方には自然な笑顔が出るのに、もう一方にはそっけなくなってしまった」。こうした経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

それは性格の良し悪しや気分の問題というより、お互いの間で交わされている目に見えない「やりとり」のパターンに違いがあるからです。心療内科医の臨床の場では、この「やりとり」を意識的に整え直すだけで、対人関係のしんどさが目に見えて軽くなる方を、たくさん見てきました。

その理解の鍵となるのが、交流分析のストローク (stroke) という概念です。本記事では、ストロークの分類、ポジティブな関係を築くための実践、そして自分自身へのストロークの与え方を解説します。

この記事の位置づけ:本記事は、交流分析の基本概念であるストロークについて、心療内科の臨床経験をもとに解説するものです。本記事の内容はコミュニケーションに関する心理教育であり、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。対人関係の困難が持続して心身の不調を伴う場合は、医療機関や専門家へのご相談をお勧めします。


ストロークとは何か

「存在を認める」という最小単位

ストロークとは、交流分析を提唱した精神科医 Eric Berne が用いた言葉で、「相手の存在を認める働きかけ」 を指します[1]。交流分析では、ストロークは「認知の単位」と説明されます。「こんにちは」と声をかける、目を合わせる、うなずく、肩に触れる、ほめる、叱る。これらすべてが、ストロークの一例です。

私たちは、人と関わって生きるうえで、つねにストロークを「与え」「受け取り」しています。交流分析では、ストロークは人間が心理的に生きていくための基本的な栄養のようなものとして、比喩的に考えられてきました。

なぜ「存在を認める」だけで関係が変わるのか

実験心理学の領域では、他者からの注目や反応が、行動の頻度に影響しうることが示されてきました[2]。また、社会的なつながりや所属感が、幸福感や健康と関連することも、多くの心理学・疫学研究で報告されています[3][4]。子どもは、親からの注目を得るなかで行動を学びます。大人になっても、私たちは他者からの「存在を認められる」という感覚を求め続けています。

逆に言えば、「無視されること」「いないかのように扱われること」は、人間にとって大きな心理的痛みになりえます。神経科学の研究では、社会的排除の体験が、身体的痛みに関わる脳領域の一部、たとえば前帯状皮質背側部などの活動と関連することが報告されています[5]。ただし、社会的痛みと身体的痛みが完全に同じ仕組みであるという意味ではなく、両者には重なりと違いがあると理解するのが適切です。

ストロークを意識することは、対人関係の質を整えると同時に、自分や相手を心理的な栄養失調に追い込まないための工夫でもあります。


ストロークの3つの分類

ストロークは、次の3つの軸で分類されます。

1. 言葉によるストローク/言葉以外によるストローク 2. ポジティブなストローク/ネガティブなストローク 3. 条件つきストローク/無条件のストローク

それぞれを順に整理します。

1. 言葉と非言語

「おはよう」「ありがとう」「お疲れさま」など、言葉でかわされるものが言葉によるストロークです。

一方、笑顔・うなずき・目線・声のトーン・身振り・距離の取り方などは言葉以外によるストロークです。

対人コミュニケーションでは、言葉の内容だけでなく、表情・声の調子・姿勢などの非言語的な手がかりも、相手の感情や態度を理解するうえで重要です。Mehrabian の古典的研究は、特に感情や態度について、言語情報と非言語情報が食い違う場面では、非言語情報が解釈に大きく関わることを示したものです[6]。ただし、これは「すべてのコミュニケーションの大半が非言語で決まる」という意味ではありません。

実践のうえでは、言葉と非言語が一致しているかを意識することが大切です。「笑顔で『おはよう』」のような一致したストロークは、相手に届きやすくなります。

2. ポジティブとネガティブ

「うれしい」「励まされる」「大切にされている」と感じさせるストロークがポジティブなストロークです。逆に、「嫌な気持ちになる」「自尊心を傷つけられる」と感じさせるものがネガティブなストロークです。

ここで、交流分析の臨床的な考え方として重要な観察があります。

ポジティブなストロークが得られにくい環境では、人はネガティブなストロークを得るような行動を取り始めることがあります。

なぜなら、無視される、つまりストロークがほとんどない状態は、人によってはネガティブなストロークを受けること以上に苦しく感じられることがあるからです。叱られる、注意される、不快がられる。それでも「相手から反応がある」ことで、完全に無視されるよりは耐えやすいと感じる場合があります。ただし、これはすべての人に一律に当てはまる法則ではなく、交流分析や行動理論の観点から理解できる一つのパターンです。

職場でいつも文句を言ってくる人、家庭で繰り返し嫌な言葉をぶつけてくる人。その背景には、その人がこれまでの人生でポジティブなストロークを十分に得にくかったという物語があるかもしれません。これは、相手の言動を許容するためではなく、相手を理解するための一つの視点として有用です。

3. 条件つきと無条件

条件つきストロークは、特定の行動・成果に対して与えられるストロークです。

  • 「テストで満点を取って、すごいね」
  • 「会議で発表してくれて、ありがとう」

無条件のストロークは、行動や成果ではなく、その人の存在自体に向けられるストロークです。

  • 「あなたがいてくれて、嬉しい」
  • 「あなたのことが好きだよ」

近年の子育て・教育の領域では「ほめて育てる」が広く語られていますが、ここで注意したいのは、ほめ方の質です。

条件つきのポジティブなストロークだけが続くと、子どもは「条件を満たした自分にしか価値はない」と学習しやすくなる場合があります。条件が満たされなくなったとき、たとえばテストの点が下がる、運動で勝てなくなるといった場面で、自尊心が大きく揺らぐことがあります。心理療法や発達心理学の領域では、無条件の肯定や受容が、安定した自己感覚を支える重要な要素として扱われてきました[7][8]。

ほめるときも叱るときも、可能であれば無条件のポジティブなストロークを土台に置きたいところです。

なお、「ネガティブなストローク」がすべて悪いわけではありません。「図書館では静かにしてほしい」「人の物を勝手に動かしてほしくない」のような条件つきネガティブなストロークは、教育上・社会生活上、必要な場面があります。問題は、「あなたという存在自体が嫌だ」のような無条件のネガティブなストロークであり、これは関係を深く傷つけます。


自分自身にストロークを与える

「自分には価値がない」と感じる方へ

「自分には価値がない」「自分は愛される存在ではない」という感覚を抱える方は、心理臨床や心療内科の臨床の場でも珍しくありません。多くの場合、それは生まれつきの性格だけで説明できるものではなく、これまでの環境で受け取ってきたストロークのパターンが影響していることがあります。

このような状態には、無条件のポジティブなストロークを自分自身に与える練習が役立つことがあります。

  • 「自分は愛されてもよい存在だ」
  • 「自分には価値がある」
  • 「ここに居ていいんだ」

これらを毎日、意識的に自分自身に向けて言い聞かせる、紙に書く、鏡の前で口にする。最初は嘘くさく感じるかもしれません。その場合は、無理に信じ込ませようとするよりも、「今はそう思えないけれど、そう考える練習をしてみる」くらいの距離感で始めると続けやすくなります。

セルフコンパッション (self-compassion) の研究では、自分自身に温かく、批判的すぎない態度で関わる練習が、抑うつ・不安の軽減や主観的幸福感の向上と関連することが、メタ分析でも示されています[9]。一方で、強い自己否定がある人にとっては、単純な肯定文の反復がかえって苦しく感じられる場合も報告されています[10]。そのため、自分を責めず、必要に応じて専門家の支援を受けながら取り組むことが大切です。

続ける期間の目安

臨床的には、変化を実感し始めるには数週間から数か月を見込んでおくと良いでしょう。ただし、変化の速さには個人差があります。

  • 1〜2週間:違和感や恥ずかしさが大きい時期
  • 1〜2か月:少しずつ自然に感じられる場面が出てくることがある
  • 3か月以降:自己批判が浮かんだときに「私はOK」と返しやすくなることがある

長年にわたって自分にネガティブなストロークを送り続けてきた方ほど、変化に時間がかかることがあります。短期で結果を求めず、数か月単位で続ける姿勢が大切です。


ストロークは「同じ種類」が交換されやすい

与えるものと、返ってくるもの

ストロークには、同じ種類が交換されやすい傾向があります。

  • ポジティブなストロークを与えた人は、ポジティブなストロークを得やすい
  • ネガティブなストロークを与えた人は、ネガティブなストロークを得やすい

これは、社会心理学でいう 互恵性 (reciprocity) の原理とも整合します[11]。

ただし、必ずしも一対一の即時的なやりとりにはなりません。「あの人にはいつも親切にしているのに、感謝されない」と感じる場面もあります。それでも、長期的に見れば、ポジティブなストロークを送り続けている人の周囲では、似たやりとりが生まれやすくなる可能性があります。

関係を変えたいときの第一歩

「あの人との関係が悪い」と感じるとき、相手を変えようとする前に、自分が普段その人にどんなストロークを送っているかを点検してみてください。

  • あいさつをしていますか?
  • 目を合わせていますか?
  • 相手の発言を最後まで聞いていますか?
  • 相手のいい面を一度でも口にしていますか?

「変える」「動かす」という意識ではなく、「自分が出しているサインを整える」という視点に立つと、関係が変わり始めることがあります。


まとめ

  • ストロークとは、相手の存在を認める働きかけ。交流分析では、人間にとって心理的な栄養のようなものと考えられている
  • ストロークは、(1) 言葉と非言語、(2) ポジティブとネガティブ、(3) 条件つきと無条件、の3軸で分類される
  • 「無視されること」を避けるために、ネガティブなストロークを得る行動が出ることがある
  • 自尊心の安定には、無条件のポジティブなストロークが土台になりやすい
  • 自分自身にも無条件のポジティブなストロークを送り続けることが、自己肯定感の回復に役立つことがある
  • ストロークは同じ種類が交換されやすい。関係を変える第一歩は、自分が出しているストロークを点検すること

ストロークは、特別な技術ではなく、日常の小さな選択の積み重ねです。今日、家族や同僚に出すあいさつ一つから、少しずつ整えてみてください。


参考文献

[1] Berne, E. (1964). Games People Play: The Psychology of Human Relationships. Grove Press.

[2] Skinner, B. F. (1953). Science and Human Behavior. Macmillan.

[3] Baumeister, R. F., & Leary, M. R. (1995). The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation. Psychological Bulletin, 117(3), 497–529.

[4] Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., & Layton, J. B. (2010). Social relationships and mortality risk: A meta-analytic review. PLOS Medicine, 7(7), e1000316.

[5] Eisenberger, N. I., Lieberman, M. D., & Williams, K. D. (2003). Does rejection hurt? An fMRI study of social exclusion. Science, 302(5643), 290–292.

[6] Mehrabian, A. (1981). Silent Messages: Implicit Communication of Emotions and Attitudes (2nd ed.). Wadsworth.

[7] Rogers, C. R. (1959). A theory of therapy, personality, and interpersonal relationships, as developed in the client-centered framework. In S. Koch (Ed.), Psychology: A Study of a Science (Vol. 3, pp. 184–256). McGraw-Hill.

[8] Harter, S. (2012). The Construction of the Self: Developmental and Sociocultural Foundations (2nd ed.). Guilford Press.

[9] Ferrari, M., Hunt, C., Harrysunker, A., Abbott, M. J., Beath, A. P., & Einstein, D. A. (2019). Self-compassion interventions and psychosocial outcomes: A meta-analysis of RCTs. Mindfulness, 10(8), 1455–1473.

[10] Wood, J. V., Perunovic, W. Q. E., & Lee, J. W. (2009). Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science, 20(7), 860–866.

[11] Cialdini, R. B. (2009). Influence: Science and Practice (5th ed.). Pearson.


免責事項:本記事は心療内科の臨床経験と心理学的な知見をもとにした解説であり、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。対人関係の困難や自己肯定感の低下が日常生活に支障をきたしている場合は、医療機関や心理職へのご相談をお勧めします。

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心療内科医カズ

— この記事を書いた人

心療内科医 カズ

総合内科専門医・心療内科専門医。20年以上の臨床と研究の経験から、心とからだの実践知をやさしく綴ります。

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