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マイオカインとは?筋肉が出す健康ホルモンと運動・筋トレの効果を医師が解説

心療内科医カズ 心療内科医カズ
公開:2026.07.20 15分で読める

マイオカインとは何ですか?

マイオカインとは、筋肉から分泌されるさまざまな生理活性物質の総称です。簡単に言うと、「筋肉が出すメッセージ物質」です。

以前は、筋肉は体を動かすための組織と考えられていました。しかし現在では、筋肉は単なる運動器官ではなく、全身に影響を与える“内分泌器官”としても働くことがわかってきました。運動によって筋肉が収縮すると、筋肉からマイオカインが分泌され、血液を介して脂肪、肝臓、脳、血管、免疫系などに影響を与えると考えられています[1][2]。

つまり、運動が健康によい理由の一部は、「カロリーを消費するから」だけではありません。筋肉が動くことで、体の中に健康を支えるシグナルが送られることも重要なのです。

マイオカインが注目されている理由

マイオカインが注目されるようになった背景には、運動が多くの病気の予防や改善に関係していることがあります。

定期的な身体活動は、心血管疾患、2型糖尿病、肥満、一部のがん、認知機能低下、うつ症状、骨粗しょう症、サルコペニアなどのリスク低下と関連することが報告されています[3][4]。もちろん、運動の効果はマイオカインだけで説明できるものではありません。心肺機能の改善、血流の改善、自律神経の調整、体脂肪の減少、睡眠の質の向上など、複数の要素が関係します。

その中でもマイオカインは、「なぜ筋肉を動かすことが全身の健康につながるのか」を説明する重要なキーワードとして注目されています。

代表的なマイオカイン

マイオカインには多くの種類があります。研究が進行中のものも多く、すべての働きが完全に解明されているわけではありません。ここでは、一般の方にも知っておきやすい代表的なものを紹介します。

IL-6

IL-6は炎症に関係する物質として知られていますが、運動中に筋肉から分泌されるIL-6は、慢性的な炎症で上がるIL-6とは文脈が異なります。筋肉由来のIL-6は、エネルギー代謝や抗炎症作用に関係すると考えられています[2][5]。

「IL-6 = 悪いもの」と単純に考えるのではなく、どのような状況で、どこから、どの程度分泌されているかが重要です。

イリシン

イリシンは、運動によって分泌が増える可能性がある物質として報告され、脂肪細胞の性質やエネルギー代謝との関係で注目されました[6]。ただし、ヒトでの測定や臨床的な意義については議論もあり、研究が続いている分野です[7]。

現時点では、「イリシンだけを増やせばやせる」といった単純な理解は避けるべきです。運動による健康効果は、複数のマイオカインや代謝変化が組み合わさって生じるものです。

BDNF

BDNFは脳由来神経栄養因子と呼ばれ、神経細胞の維持や可塑性に関係する物質です。運動は血中BDNF濃度に影響する可能性があり、認知機能やメンタルヘルスとの関係が研究されています[8]。

また、有酸素運動によって高齢者の海馬体積が増加し、記憶機能に良い影響がみられたという報告もあります[9]。海馬は記憶に関わる脳の部位です。運動が脳に良いと言われる背景には、このような研究があります。

ミオスタチン

ミオスタチンは、筋肉の成長を抑える方向に働く物質です。ミオスタチンの働きが弱まると筋肉量が増えやすくなることが、動物研究などで示されています[10]。

加齢とともに筋肉量が減るサルコペニアでは、筋肉量を保つことがとても重要です。マイオカインの研究は、将来的にサルコペニアやフレイル対策にもつながる可能性があります。

マイオカインと糖尿病・血糖値の関係

運動が血糖値の改善に役立つことは、医学的にもよく知られています。筋肉は体内でブドウ糖を取り込む大きな組織です。運動によって筋肉が収縮すると、インスリンとは別の経路でもブドウ糖の取り込みが促されます。

さらに、定期的な運動はインスリン感受性を改善し、2型糖尿病の血糖コントロールに良い影響を与えることが報告されています。構造化された運動療法は、2型糖尿病患者さんのHbA1c改善と関連することがメタ解析で示されています[11]。

ここで大切なのは、「激しい運動をしないと意味がない」わけではないということです。ウォーキング、軽い筋トレ、階段を使う、こまめに立ち上がるといった行動でも、筋肉を動かす機会を増やすことにつながります。

マイオカインと肥満・内臓脂肪

肥満、特に内臓脂肪の増加は、慢性炎症やインスリン抵抗性と関係します。筋肉を動かすことは、エネルギー消費を増やすだけでなく、脂肪組織や肝臓の代謝にも影響すると考えられています[1]。

ただし、マイオカインを「やせるホルモン」とだけ表現するのはやや乱暴です。体重管理には、食事、睡眠、ストレス、活動量、筋肉量、ホルモン環境などが複雑に関係します。運動はその中心的な柱の一つですが、運動だけで短期間に大きく体重を落とそうとすると、続かないこともあります。

医師の立場からは、「体重を落とすために運動する」というより、「筋肉を動かして代謝のよい体を育てる」と考えるほうが、長く続きやすいと感じます。

マイオカインと炎症・免疫

現代人の健康問題では、慢性炎症が重要なテーマです。慢性炎症とは、強い痛みや発熱を伴う急性炎症とは異なり、体内で低いレベルの炎症が長く続く状態です。肥満、糖尿病、動脈硬化、加齢などと関係します。

運動によって筋肉から分泌されるマイオカインは、炎症の調節に関係すると考えられています。特に運動時のIL-6は、抗炎症性サイトカインの誘導などを通じて、炎症環境に影響する可能性が示されています[5]。

ただし、過度な運動や睡眠不足を伴うトレーニングは、逆に体に負担をかけることがあります。健康目的であれば、「頑張りすぎる運動」よりも「継続できる運動」が大切です。

マイオカインと脳の健康

運動後に気分がすっきりしたり、頭が冴えたように感じたりする方は少なくありません。この感覚には、血流、自律神経、睡眠、ストレスホルモン、神経伝達物質などが関係しますが、マイオカインやBDNFのような因子も注目されています。

運動と脳の関係では、認知機能やうつ症状への影響も研究されています。特に高齢者では、身体活動が認知機能低下の予防に役立つ可能性が示されており、運動習慣は脳の健康を守る生活習慣の一つと考えられます[4][9]。

「脳を鍛える」というと読書や計算を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実は歩くこと、筋肉を使うことも、脳にとって大切な刺激になります。

マイオカインとサルコペニア・フレイル

年齢を重ねると、筋肉量や筋力は少しずつ低下します。これが進行すると、サルコペニアやフレイルにつながります。サルコペニアは筋肉量や筋力が低下した状態で、フレイルは心身の予備力が低下した状態です。

高齢期に筋肉を保つことは、転倒予防、寝たきり予防、生活の自立に直結します。筋力トレーニングは高齢者の筋力や身体機能の改善に役立つことが報告されています[12]。

マイオカインの観点から見ても、筋肉は単なる「体を支える肉」ではなく、全身の健康を支える臓器です。年齢を重ねるほど、筋肉を守る意義は大きくなります。

マイオカインを増やすにはどうすればよいですか?

マイオカインは、筋肉を動かすことで分泌が促されます。特別な運動だけが必要なわけではありません。大切なのは、日常生活の中で筋肉を使う時間を増やすことです。

世界保健機関は、成人に対して中等度の有酸素運動を週150〜300分、または高強度の有酸素運動を週75〜150分行うこと、さらに週2日以上の筋力強化活動を行うことを推奨しています[4]。

実践しやすい方法としては、次のようなものがあります。

  • 早歩き、ウォーキング、サイクリングなどの有酸素運動
  • スクワット、腕立て伏せ、かかと上げなどの筋トレ
  • 階段を使う、こまめに立つ、座りっぱなしを減らす生活習慣

最初から完璧を目指す必要はありません。運動習慣がない方は、1日10分の散歩から始めても十分です。大切なのは、体力に合わせて少しずつ続けることです。

筋トレと有酸素運動、どちらがよいですか?

結論から言えば、どちらも大切です。

有酸素運動は心肺機能、血糖コントロール、脂質代謝、血圧、脳の健康に良い影響が期待できます。筋トレは筋肉量や筋力を保ち、基礎代謝、姿勢、転倒予防、サルコペニア予防に役立ちます。

マイオカインの観点でも、さまざまな筋肉を使うことが重要です。大きな筋肉が多い下半身を使う運動、たとえばウォーキング、スクワット、階段昇降などは、日常生活に取り入れやすい方法です。

運動するときの注意点

運動は健康に役立ちますが、すべての人が同じ内容でよいわけではありません。心臓病、腎臓病、糖尿病、高血圧、整形外科的な痛みがある方、息切れや胸痛がある方、糖尿病の薬を使用中の方は、運動を始める前に主治医へ相談してください。

特に、急に強い運動を始めると、関節痛、筋肉痛、転倒、心血管系への負担につながることがあります。健康目的の運動は、「安全に、無理なく、長く続ける」ことが基本です。

マイオカインを意識した生活のポイント

マイオカインを増やすために、特殊なサプリメントや高額な器具が必要なわけではありません。最も基本になるのは、自分の筋肉を日々使うことです。

そして、筋肉を育てるためには、運動だけでなく、食事と休養も重要です。たんぱく質を含む食事をとること、睡眠時間を確保すること、極端な食事制限を避けることは、筋肉を守るうえで欠かせません。

筋肉は、使えば刺激に応えてくれます。一方で、使わなければ年齢に関係なく衰えていきます。マイオカインという言葉を知ることは、「運動しなければいけない」という義務感ではなく、「筋肉を動かすことは自分の体に良いメッセージを送ることなのだ」と理解するきっかけになります。

まとめ

マイオカインは、筋肉から分泌される生理活性物質の総称です。筋肉は体を動かすだけでなく、全身に影響を与える内分泌器官としても働いています。

運動によって分泌されるマイオカインは、血糖コントロール、脂質代謝、炎症、脳の健康、筋肉量の維持などに関係すると考えられています。ただし、マイオカインだけですべての健康効果を説明できるわけではなく、運動の効果は多くの仕組みが重なって生まれます。

健康のために大切なのは、特別な運動を一時的に頑張ることではありません。歩く、立つ、階段を使う、軽い筋トレをする。そうした日々の積み重ねが、筋肉を通じて全身の健康を支えてくれます。

参考文献

  1. Pedersen BK, Febbraio MA. Muscles, exercise and obesity: skeletal muscle as a secretory organ. Nature Reviews Endocrinology. 2012.
  2. Pedersen BK, Febbraio MA. Muscle as an endocrine organ: focus on muscle-derived interleukin-6. Physiological Reviews. 2008.
  3. Warburton DER, Nicol CW, Bredin SSD. Health benefits of physical activity: the evidence. CMAJ. 2006.
  4. World Health Organization. WHO Guidelines on physical activity and sedentary behaviour. 2020.
  5. Petersen AMW, Pedersen BK. The anti-inflammatory effect of exercise. Journal of Applied Physiology. 2005.
  6. Boström P, et al. A PGC1-α-dependent myokine that drives brown-fat-like development of white fat and thermogenesis. Nature. 2012.
  7. Jedrychowski MP, et al. Detection and Quantitation of Circulating Human Irisin by Tandem Mass Spectrometry. Cell Metabolism. 2015.
  8. Dinoff A, et al. The effect of acute exercise on blood concentrations of brain-derived neurotrophic factor in healthy adults: a meta-analysis. European Journal of Neuroscience. 2017.
  9. Erickson KI, et al. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2011.
  10. McPherron AC, Lawler AM, Lee SJ. Regulation of skeletal muscle mass in mice by a new TGF-β superfamily member. Nature. 1997.
  11. Umpierre D, et al. Physical Activity Advice Only or Structured Exercise Training and Association With HbA1c Levels in Type 2 Diabetes. JAMA. 2011.
  12. Liu CJ, Latham NK. Progressive resistance strength training for improving physical function in older adults. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2009.

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心療内科医カズ

— この記事を書いた人

心療内科医 カズ

総合内科専門医・心療内科専門医。20年以上の臨床と研究の経験から、心とからだの実践知をやさしく綴ります。

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