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感情のコントロールがメンタルヘルスに与える影響|抑え込まず上手に整える方法

心療内科医カズ 心療内科医カズ
公開:2026.08.04 14分で読める

「怒らないようにしなければ」「不安を考えないようにしよう」「つらくても笑顔でいなければ」と、自分の感情を一生懸命に抑えていませんか。

感情をコントロールすることは、感情をなくしたり、常に冷静でいたりすることではありません。大切なのは、今ある感情に気づき、その意味を理解し、状況に合った行動を選べるようにすることです。

一時的に感情を抑えることが必要な場面もあります。しかし、怒りや悲しみ、不安を長期間にわたって押し込め続けると、心身の緊張が抜けにくくなり、メンタルヘルスに影響することがあります。

感情のコントロールとは「感情を消すこと」ではありません

心理学や精神医学では、感情を扱う働きを「感情調整」または「感情制御」と呼びます。

感情は、ある出来事に注意を向け、その出来事を自分なりに意味づけることで生まれます。その後、動悸や筋肉の緊張といった身体反応、表情、言葉、行動として表れます。

感情調整には、状況から少し離れる、注意の向け先を変える、出来事の捉え方を見直す、気持ちを言葉にする、行動を選び直すといった方法があります。

代表的な研究では、感情が強くなる前に出来事の捉え方を変える「認知的再評価」と、感情が生じた後に表情や行動を隠す「表出抑制」が区別されています。どちらも場面によって必要ですが、感情を外に出さないことと、心の中で感情が落ち着くことは同じではありません。[1]

感情の扱い方はメンタルヘルスと関係しています

2万1,000人以上を含む研究をまとめたメタ分析では、出来事の捉え方を柔軟に変える認知的再評価は、生活満足度やポジティブな感情と正の関連を示し、抑うつや不安などとは負の関連を示していました。

一方、感情を表情や言葉に出さない表出抑制は、全体として良好なメンタルヘルスとは負の関連を示していました。ただし、感情表現に関する文化的な価値観によって関連の強さが異なることも示されています。[2]

つまり、「感情は出したほうがよい」「我慢はすべて悪い」と単純に考えることはできません。重要なのは、いつでも同じ方法を使うのではなく、状況に合わせて複数の方法を選べる柔軟性です。

また、うつ病、不安症、摂食障害、物質使用に関する114件の研究をまとめたメタ分析では、反すう、回避、感情の抑制といった方法は、認知的再評価や問題解決などよりも、さまざまな精神症状と強く関連していました。[3]

ここでいう「反すう」とは、嫌な出来事や自分の失敗について、解決につながらないまま何度も考え続けることです。考えている時間は長くても、具体的な行動や問題解決には進めないという特徴があります。

感情を抑え続けると起こりやすいこと

感情を表に出さないようにすることは、その場を乗り切るうえで役立つ場合があります。仕事中や緊急時など、いったん気持ちを脇に置くことが必要な場面もあるでしょう。

問題になりやすいのは、どのような場面でも感情を抑える方法しか使えなくなることです。

怒りを抑え続けて突然爆発する、悲しみを感じないように忙しくし続ける、不安を避けるために外出や人付き合いを減らす、といった状態になることがあります。

感情を習慣的に抑える傾向は、ポジティブな感情の少なさや、対人関係の満足度の低さなどと関連することが報告されています。[4] ただし、これらは主に関連性を示した研究であり、感情を抑えることだけが原因だと断定できるものではありません。

感情のコントロールがうまくいっていないときには、次のような変化が見られます。

・些細なことで強くイライラする
・嫌な出来事を何時間も考え続ける
・本音を言えず、あとから強い疲労を感じる
・不安を感じる場面を過度に避ける
・食べ過ぎ、飲酒、買い物などで気分を紛らわせる
・頭痛、動悸、肩こり、胃の不快感などが続く
・眠りが浅く、朝から気分が重い

一つ当てはまるだけで病気というわけではありません。頻度が増えているか、生活や人間関係に影響しているかを見ることが大切です。

感情は「心からの情報」です

怒りは、自分の大切なものが傷つけられたと感じているサインかもしれません。不安は、危険に備えようとしている反応です。悲しみは、大切なものを失ったことを受け止める過程で生じます。

もちろん、感情が伝える内容が常に事実とは限りません。不安を感じたからといって、本当に危険が迫っているとは限らないからです。

それでも、「なぜこの感情が生まれたのだろう」と考えることで、自分が大切にしていることや、休息・安全・理解などの必要性に気づきやすくなります。

感情を敵として追い出そうとするより、ひとまず情報として受け取ることが、適切な感情調整の第一歩です。

感情を上手に整える5つのステップ

1.反応する前に、いったん止まります

怒りや不安が強いときは、すぐに結論を出したり、メッセージを送ったりしないことが大切です。

呼吸をゆっくり吐き、足の裏が床に触れている感覚や、椅子に支えられている感覚に注意を向けます。感情をすぐに消すことが目的ではなく、衝動的な行動までの間に少し余白をつくることが目的です。

2.感情に具体的な名前をつけます

「最悪です」「もう無理です」とまとめるのではなく、「不安が6割、怒りが3割、悲しみが1割あります」など、できる範囲で具体化します。

感情を言葉に置き換える「感情ラベリング」は、感情刺激に対する脳の反応を和らげる可能性が研究で示されています。[5]

ぴったりした言葉が見つからなければ、「落ち着かない」「胸が重い」「逃げたい感じがする」など、身体感覚や行動したい衝動から表現しても構いません。

3.事実と解釈を分けます

たとえば、相手から返信が来ないことは事実です。

「嫌われたに違いない」「自分は大切にされていない」という部分は、現時点での解釈です。解釈が間違っているとは限りませんが、ほかの可能性も考えます。

「忙しいのかもしれません」「返信内容を考えているのかもしれません」と捉え直すことで、感情の強さが変化する場合があります。

4.自分の目的に合う行動を選びます

感情に従うか、感情を無視するかという二択ではありません。

「相手を責めたい」という衝動があっても、本当の目的が「自分の困りごとを理解してほしい」であれば、責める言い方よりも、困っている事実や希望を落ち着いて伝えるほうが目的に近づきやすくなります。

感情は尊重しながら、行動は自分で選びます。

5.一人で抱え込まず、適切な相手に伝えます

感情を表現することは、すべてをそのまま相手にぶつけることではありません。

信頼できる人に話す、ノートに書く、医療機関やカウンセリングで整理するなど、安全な場所を選びます。

「あなたのせいです」と伝えるのではなく、「私は今、不安を感じています」「少し時間を取って話したいです」と、自分を主語にして伝える方法も役立ちます。

感情をコントロールできないのは意志が弱いからではありません

強いストレスが長期間続いていると、普段なら受け流せる出来事にも敏感に反応しやすくなります。

また、うつ病や不安症、トラウマに関連する問題などが背景にあり、感情を整えることが難しくなっている場合もあります。本人の性格や努力不足だけで説明できるものではありません。

心理療法に関する研究では、認知行動療法、弁証法的行動療法、マインドフルネスを取り入れた治療などによって、感情調整が改善する可能性が示されています。ただし、研究間の違いも大きいため、すべての人に同じ方法が有効とは限りません。[6]

自分に合う方法を見つけることが大切です。

心療内科や精神科への相談を考える目安

次のような状態が続いている場合は、セルフケアだけで解決しようとせず、心療内科、精神科、かかりつけ医などへの相談を検討してください。

気分の落ち込みや不安、怒りが長く続く、仕事や家事に支障がある、眠れない日が続く、人との衝突が増えている、飲酒や過食で感情を紛らわせることが増えているといった場合です。

自分を傷つけたい気持ちや、消えてしまいたい気持ちがある場合は、一人で抱えず、身近な人や医療機関、地域の救急窓口に早めに助けを求めてください。

受診は「感情を自分でコントロールできなかった証拠」ではありません。感情が強くなる背景を整理し、自分に合う対処法を一緒に探すための選択肢です。

まとめ:感情は抑え込むより、柔軟に扱うことが大切です

感情のコントロールとは、怒りや不安、悲しみを消すことではありません。

感情に気づき、名前をつけ、事実と解釈を分け、自分が本当に望む行動を選ぶことです。

一時的に感情を抑えることが必要な場面はあります。しかし、いつでも我慢する、避ける、考え続けるという方法だけになると、心身の負担が大きくなることがあります。

「感情をなくそう」とするのではなく、「今の自分には、どのような扱い方が必要だろう」と考えてみてください。その柔軟性が、メンタルヘルスを守る力になります。

※本記事は一般的な医学・心理学的情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。

参考文献

[1] Gross JJ. Antecedent- and response-focused emotion regulation: divergent consequences for experience, expression, and physiology. Journal of Personality and Social Psychology. 1998;74(1):224-237.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9457784/

[2] Hu T, Zhang D, Wang J, Mistry R, Ran G, Wang X. Relation between emotion regulation and mental health: a meta-analysis review. Psychological Reports. 2014;114(2):341-362.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24897894/

[3] Aldao A, Nolen-Hoeksema S, Schweizer S. Emotion-regulation strategies across psychopathology: a meta-analytic review. Clinical Psychology Review. 2010;30(2):217-237.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20015584/

[4] Gross JJ, John OP. Individual differences in two emotion regulation processes: implications for affect, relationships, and well-being. Journal of Personality and Social Psychology. 2003;85(2):348-362.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12916575/

[5] Lieberman MD, Eisenberger NI, Crockett MJ, Tom SM, Pfeifer JH, Way BM. Putting feelings into words: affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science. 2007;18(5):421-428.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17576282/

[6] Antuña-Camblor C, Gómez-Salas FJ, Burgos-Julián FA, González-Vázquez A, Juarros-Basterretxea J, Rodríguez-Díaz FJ. Emotional Regulation as a Transdiagnostic Process of Emotional Disorders in Therapy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Clinical Psychology & Psychotherapy. 2024;31(3):e2997.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38747373/

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心療内科医カズ

— この記事を書いた人

心療内科医 カズ

総合内科専門医・心療内科専門医。20年以上の臨床と研究の経験から、心とからだの実践知をやさしく綴ります。

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