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呼吸を整えると心も落ち着く?メンタルヘルスに役立つ呼吸法を心療内科医が解説

心療内科医カズ 心療内科医カズ
公開:2026.07.25 14分で読める

呼吸の調整がメンタルヘルスに及ぼす影響

不安や緊張が強くなると、息が浅くなったり、呼吸が速くなったりすることがあります。

反対に、呼吸を意識してゆっくり整えると、張り詰めていた気持ちが少し緩むこともあります。呼吸は普段、無意識に続けているものですが、意識的にも調整できるという特徴を持っています。

つまり呼吸は、「自分の意思で働きかけることができる、心と体の接点」の一つです。

この記事では、呼吸の調整がストレスや不安などのメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすのか、現在の科学的根拠とともに解説します。後半では、日常生活で無理なく取り入れられる方法も紹介します。

呼吸と心の状態は互いに影響し合っています

私たちの呼吸は、感情や身体の状態によって変化します。

安心しているときには、呼吸は比較的ゆっくりと安定しています。一方、強い不安、怒り、焦りを感じたときには、交感神経の働きが高まり、呼吸が速く浅くなりやすくなります。

ここで大切なのは、「心の状態が呼吸を変える」だけではないということです。呼吸の速さや深さを意識的に変えることで、心拍や自律神経系、注意の向け方などにも変化が生じる可能性があります。

ゆっくりとした呼吸に関する研究では、心拍変動や呼吸性洞性不整脈など、自律神経による調整を反映する指標に変化がみられることが報告されています[1、2]。ただし、「呼吸をすれば副交感神経のスイッチが入る」と単純に表現できるものではありません。

呼吸、心拍、血圧、感情、注意、脳活動は互いに影響し合っています。呼吸法は、その複雑な調整に穏やかに働きかける方法と考えるのが適切です。

呼吸法はストレスや不安を軽減するのでしょうか

呼吸法の効果を検討したランダム化比較試験のメタ解析では、呼吸法を行ったグループは対照グループと比べて、主観的なストレス、不安、抑うつ症状が改善する傾向を示しました[3]。

ただし、その効果はすべての人に同じように現れるわけではありません。研究によって、呼吸の方法、練習時間、実施期間、対象者が異なっています。また、小規模な研究が多いことや、呼吸法への期待が結果に影響する可能性も指摘されています。

したがって、現段階では次のように理解するのが妥当です。

呼吸法は、ストレスや不安を和らげる可能性がある、低コストで取り組みやすいセルフケアです。しかし、精神疾患を単独で治療する方法ではありません。

呼吸法を試して少し楽になる人もいれば、あまり変化を感じない人もいます。それは失敗ではなく、セルフケアとの相性が人によって異なるためです。

1日5分でも効果は期待できる?

2023年に発表されたランダム化比較試験では、参加者が1日5分間、約1か月にわたって呼吸法またはマインドフルネス瞑想を実践しました[4]。

呼吸法には、吐く息を長くする方法、四角形を描くように一定のリズムで呼吸する方法、二段階で吸って長く吐く「周期的ため息呼吸」などが含まれていました。

その結果、いずれのグループでも気分や不安の改善がみられました。特に周期的ため息呼吸を行ったグループでは、気分の改善や呼吸数の低下が比較的大きくみられました。

この研究だけで特定の呼吸法が最も優れていると断定することはできませんが、長時間の訓練を行わなくても、毎日5分程度の実践が心身の状態に影響する可能性を示しています。

腹式呼吸にはどのような効果がありますか

腹式呼吸、より正確には横隔膜呼吸とは、胸や肩だけを大きく動かすのではなく、横隔膜の動きを意識しながら行う呼吸です。

健康な成人を対象とした研究では、横隔膜呼吸の練習により、ネガティブな感情やコルチゾール値が低下し、持続的注意が改善したことが報告されています[5]。

一方で、「お腹を大きく膨らませなければならない」「肺いっぱいに吸わなければならない」と考える必要はありません。息を吸いすぎると、かえって苦しくなったり、めまいや手足のしびれが出たりすることがあります。

大切なのは、深さを競うことではなく、苦しくない範囲で静かに呼吸することです。

心療内科医がすすめる基本の呼吸セルフケア

初心者には、息を止める時間が長い複雑な呼吸法よりも、ゆっくり吐くことを意識するシンプルな方法が適しています。

基本の「4秒吸って、6秒吐く呼吸」

椅子やソファに座り、背中を無理に伸ばしすぎない楽な姿勢を取ります。

鼻から静かに4秒ほどかけて吸い、口または鼻から6秒ほどかけて吐きます。これを1~5分程度繰り返します。

「4秒、6秒」は絶対的な決まりではありません。苦しい場合は、「3秒吸って4秒吐く」など、自分に合う長さに短くしてください。

ポイントは、息を大量に吸うことではなく、吐く息を急がず、呼吸全体を穏やかにすることです。

公的機関のセルフケア情報でも、呼吸を無理に深くせず、心地よい範囲で規則的に続けることが勧められています[6]。

数を数えると緊張する人の呼吸法

呼吸の秒数を正確に守ろうとすると、かえって緊張する人もいます。

その場合は、秒数を数えずに、

「静かに吸う」

「吸うときより少しゆっくり吐く」

という二つだけを意識してください。

音楽を一曲聴いている間、信号を待っている間、パソコンを立ち上げる間など、日常の動作と結びつけると続けやすくなります。

二段階で吸い、長く吐く呼吸

ため息には、乱れた呼吸を調整する生理的な役割があります。これを意識的に行う方法が、周期的ため息呼吸です。

まず鼻から息を吸います。続けて、肺に少し空気を足すようにもう一度短く吸い、口からゆっくり長く吐きます。

初めて行う場合は、まず1~3回程度から試してください。吸う量を増やしすぎず、めまいが起きたら中止します。

研究では、この呼吸を1日5分間続ける方法が検討されていますが[4]、セルフケアでは回数や時間を無理に研究条件へ合わせる必要はありません。

どの時間帯に行えばよいですか

呼吸法は、不安が最も強くなってから初めて使うより、比較的落ち着いている時間に練習しておくことが大切です。

朝の仕事を始める前、昼休み、入浴後、就寝前など、自分が続けやすい時間を一つ選びます。

おすすめは「1日1回、まず1分」です。慣れてきたら3分、5分と延ばします。

短くても毎日続けることで、「呼吸を整えると少し落ち着ける」という感覚を体が学びやすくなります。

呼吸法で不安が強くなることもあります

呼吸に意識を向けることで、かえって息苦しさや心拍が気になる人もいます。

特に、パニック発作を経験したことがある人や、身体感覚への不安が強い人は、「正しく呼吸しなければならない」という意識が新たな緊張を生むことがあります。

また、「深呼吸をしよう」と必要以上に大量の空気を吸ったり、速い呼吸を繰り返したりすると、過換気となり、めまい、ふらつき、手足や口の周囲のしびれ、動悸などが現れる可能性があります[7]。

そのような場合は、無理に呼吸を操作せず、次のような方法へ切り替えます。

足の裏が床に触れている感覚を確かめる、周囲に見えるものをゆっくり観察する、椅子や壁に体を預けるなど、呼吸以外の感覚に注意を向けてください。

呼吸法が合わないと感じる場合、無理に続ける必要はありません。

呼吸法を行う際の注意点

呼吸法は比較的安全なセルフケアですが、次の場合は慎重に行ってください。

喘息、慢性閉塞性肺疾患、心疾患などで治療を受けている人は、主治医に相談したうえで行うことをおすすめします。妊娠中の人や、失神、けいれん発作の既往がある人も、長い息止めや激しい高速呼吸を自己判断で行うことは避けてください。

呼吸法の途中で強い息苦しさ、胸痛、失神しそうな感覚、冷や汗、これまでに経験したことのない激しい動悸などが現れた場合は、単なる不安と決めつけず、医療機関への相談が必要です。呼吸の異常には、心臓や肺などの病気が隠れている可能性もあります[8]。

呼吸法だけでつらさを抱え込まないでください

呼吸法は、ストレスへの対処を助ける一つの道具です。

しかし、強い不安、抑うつ、不眠、パニック発作などが長期間続いている場合や、仕事、家事、学業、人間関係に支障が出ている場合は、セルフケアだけで解決しようとしないことが大切です。

呼吸法で一時的に落ち着けても、つらさの背景にある環境、考え方、過労、睡眠不足、身体疾患などへの対応が必要なことがあります。

治療が必要な状態では、心理療法、環境調整、生活習慣の見直し、薬物療法などを組み合わせます。呼吸法は、こうした治療を置き換えるものではなく、治療を支える方法として活用できます。

まとめ

呼吸は、心の状態を映し出すと同時に、自分から心身へ働きかける入り口にもなります。

研究では、意識的に呼吸を整えることにより、ストレス、不安、抑うつ症状が小さく改善する可能性が示されています。しかし、効果には個人差があり、精神疾患を呼吸法だけで治療できるわけではありません。

まずは1日1分、息を無理に深くせず、「静かに吸い、少し長めに吐く」ことから始めてみてください。

呼吸を完璧にコントロールする必要はありません。

乱れている自分を責めるのではなく、今の呼吸に気づき、少しだけ整える。その小さな時間が、心を現在に戻すきっかけになることがあります。

参考文献

  1. Zaccaro A, et al. How Breath-Control Can Change Your Life: A Systematic Review on Psycho-Physiological Correlates of Slow Breathing. Front Hum Neurosci. 2018;12:353. URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30245619/
  2. Laborde S, et al. Effects of voluntary slow breathing on heart rate and heart rate variability: A systematic review and meta-analysis. Neurosci Biobehav Rev. 2022;138:104711. URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35623448/
  3. Fincham GW, et al. Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Sci Rep. 2023;13:432. URL:https://doi.org/10.1038/s41598-022-27247-y
  4. Balban MY, et al. Brief structured respiration practices enhance mood and reduce physiological arousal. Cell Rep Med. 2023;4(1):100895. URL:https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2022.100895
  5. Ma X, et al. The Effect of Diaphragmatic Breathing on Attention, Negative Affect and Stress in Healthy Adults. Front Psychol. 2017;8:874. URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28626434/
  6. National Health Service. Breathing exercises for stress. URL:https://www.nhs.uk/mental-health/self-help/guides-tools-and-activities/breathing-exercises-for-stress/
  7. Better Health Channel, Victoria State Government. Breathing to reduce stress. URL:https://www.betterhealth.vic.gov.au/health/healthyliving/breathing-to-reduce-stress
  8. National Heart, Lung, and Blood Institute. How the Lungs Work: What Breathing Does for the Body. URL:https://www.nhlbi.nih.gov/health/lungs/breathing-benefits

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心療内科医カズ

— この記事を書いた人

心療内科医 カズ

総合内科専門医・心療内科専門医。20年以上の臨床と研究の経験から、心とからだの実践知をやさしく綴ります。

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